理事長所信

第61代理事長 岡部祥司

はじめに

『私たちは、どこから来て、どこに向かうのか、誰のために活動し、何のために生きるのか。』
人類の歴史は、今から約五千年前の文明誕生から始まったと言われており、その長い歴史の中で今の国家や社会が生まれ、政治や法律、経済や産業が生まれ、文化や伝統、科学や技術、芸術や思想が生まれ、地域ごとに数々の輝かしい発展を重ねながら進化してきました。しかしこれだけ長い歳月をかけても、迫害や差別、経済不安や貧困に別れを告げる事が出来ず、今も多くの人々が苦しみと悲しみの中にあるのもまた事実であり、人類の行く末が今、私たちに委ねられているのです。
過去と未来とを繋ぐ微妙な危うさの中で存在する今という時代に生きる私たちが成すべきことは、人生に意味を問うのではなく、人生が私たちに意味を問うていると捉え、変化こそ人の世の常態であることを忘れずに、自らの志を見出し、先人たちが築き上げた有形無形の資産を進化させ、未来に繋ぐ責任を果たすことではないだろうか。
2012年度、私は今を生きる者の一人として持つべき志を「彩り」と定義し、横浜という街との関わり、この組織との関わりを明確にし、同じ時間を生きる全ての地域にも目を向け、我が身との関わりを理解し、新しい価値観を生み出す「彩り」溢れる横浜の実現を目指します。

「彩り」溢れる市民が横浜の未来を創る

『言葉に責任を持ち、正論を述べることこそが、私たちの存在意義である。』
横浜という街は決して私たちだけのものではありません。先人、未来の住民、そして今を生きる私たちのものであり、個人、企業、行政、民間団体、そして近年は社会企業家とも複雑に関わり合い、それぞれの正義がある中で成り立っているのです。
この街は、安政6年の開港以来、外国人と共存し、異文化を受け入れる豊かな精神性を育み、港を中心とした新しい自由経済活動や文化を創り出し、今や世界に誇る観光地として発展を遂げ、現在では活気溢れる市民が躍動する街となりました。
それを具現化してきたのは、個人においても、組織においても、そして社会においても「自分たちの事は自分たちで決める」という姿勢を貫きながらも、相手や立場を尊重する横浜人気質に基づいた民主主義を大切に守り、政を民間主導で推し進めてきた結果であり、未来を見据え、慣習に縛られず、勇気を持って過去に踏み込んできたからであります。
大切なのは、感情的な世間の風潮に流されず、現実に真正面から向き合い、横浜を取り巻く全ての事柄を我が事として捉え、その原理原則を掌握し、あらゆる立場の人びとの正義を理解しながら、自らの「彩り」をもって考え、判断することなのです。創立61年目を迎える横浜青年会議所は、今後も不偏不党を貫き、過去から現在へと繋がる道筋を検証し、率先して行動する「彩り」溢れた市民を創出し、未来へ向けた明確な一歩を踏み出さなければならないのです。

伝統の継承と深化によって地域に「彩り」を

『伝統とは革新し続ける事であり、深化とは物事を深める事に他ならない。』
開港153年目を迎える横浜は、旧五大政令指定都市と比較して一番人口を抱える都市である一方、街としての歴史は浅く、民衆を惹きつけるための地域に根付いた古来より存在する祭ごとや風習が少なかったのも事実です。しかし多くの外国人や地方都市からの移住者を受け入れ、「3日住めば、はまっ子」に代表される受容の精神を持ち、常に新しい文化、商売で人々を惹きつけ、地域の魅力を高め、多種多様な住民がうまく融合していたことが今日の横浜の発展に大きく寄与しているのです。
この街に住み暮らす私たちは、この伝統を継承するべく、街を構成する全ての人びとと手を取り合い、開港の地としての自信と誇りを持ち、地域に根付く賑わいを創り上げ、未来に繋がる新しい文化を育てていかなければなりません。また、地域資産を深化させるために、私たちだからこそ、知り得る街の魅力を再検証し、内外に知らしめる活動も展開しなければなりません。今なお、街に眠っている資産を見出し、光輝かせる事で横浜はもっと「彩り」ある街へと深化するのです。

察する力を育て「彩り」が宿る地域教育を

『ヒトやモノへの愛着は、その背景を知る事から始まる』
ある映画で、男女が別れるというワンシーンがあります。そのシーンだけでは情感は湧き上がりませんが、その物語を追い、背景を知り、想像することで幸せや悲しさという感情が湧き上がるように、生きていく上で大切な力の一つが「察する力」であり、人は人生の中での多くの経験から自らの感情を積み重ね、人の立場や心も推し量るようになるのです。現在、横浜には数多くの市民活動団体が存在し、その中でも子ども対象の事業は年間数百を越える事業が実施されています。私たちは、公教育では実現しにくい分野、つまり実社会で活躍する大人たち自身が、積み重ねてきた経験を子どもたちに体感させる機会を提供することに特化し、無数に拡がる地域ネットワークを繋ぎ、単独ではなく協働でアプローチし、民間主導による教育を公教育の補佐的位置づけとして創り上げ、相手の立場や心を察し、自らの力に変える事が出来る、そんな地域の「彩り」が宿る教育を推し進めなければなりません。

見えざる資産を重視する「彩り」ある共感都市へ

『古い眼鏡をかけたまま、新しい世界を見ることはできない』
2011年3月11日に起きた大震災は、国家と地域、様々な法人格を持つ団体、そして個人の在り方について大きな転換を迎える歴史の折り返し地点となりました。
広大な地域に広がる被害は、行政活動の限界と民間団体の役割を浮き彫りにし、また近代の都市化による様々な問題点も明らかとなり、NPOやNGO、社団法人と株式会社の境目が薄まりつつある社会において、今後の社会を形成し、団体や個人を結び付けていくのは共感に他なりません。私たちは、この経験を生かし、人と人とを結ぶ信頼資産、悠久の歴史を重ねた文化資産、世界と個人を結ぶ国際資産、民族の知識と知恵が築く英知的資産など、この地域にしかない見えざる資産の運用を機軸とした新しい価値観を持ち、インフラ、エネルギーの在り方を含め、新しい共感都市の確立を目指さなければなりません。

横浜のために「彩り」ある世界観を育もう

『外は広く内は深いという世界観こそが横浜の礎となる』
人の価値観は、生きてきた時代や環境に大きく左右され、認識できる世界は極めて限定的であり、場合によっては大きく歪められた世界しか見えなくなる宿命を負っています。
IT革命により、世界との距離が格段に近くなり、食卓に並ぶ食材が外国産も少なくない今、食糧、環境、経済問題など私たちの生活の中で、世界との繋がりを意識せず、横浜で完結する問題など存在しません。今求められるのは、大空から鳥が世界を見渡すように、世界の拡がりを認識すると同時に、虫が地面を這うように、今を生きる人々の表情に触れようとする行為であり、顔が見える関係を世界中に拡げ、自身の世界観を創り上げることなのです。
私の言う世界観とは、決して知識を高めることではなく、社会の不条理に目を向けることであります。そしてその不条理に対する怒りや問題意識を高め、自身との繋がりを理解し、地球規模での俯瞰的な視野を持ち、活動範囲を拡げていくことこそが、この横浜にとって大きな資産となるのです。

「彩り」溢れる組織であり続けるために

『あなた「自身」が、この世で見たいと思う「変化」にならなければならない』
青年会議所活動を進めると思い通りにいかない事も多々あり、感情を揺さぶられる事がたくさんあります。もちろん私自身も未知なる経験や多くの出会い、感動がありましたし、決して望むことの無い悲しみや苦しさもありました。私は、青年会議所活動で最も大切な事は、その活動や理念が本人の生き様と一致しているかどうか、共感を得ているかどうかであり、何故青年会議所活動に時間を注ぐのかと自問自答しながらも、最後までやり続ける事だと考えています。
JCIミッションにある通り、この組織は青年に機会を与え続け、積極的変化を創造する事を使命としています。私たちは、この組織が与えてくれる機会をきっかけとし、今を生きる者の責務を果たすべく、地域が抱える課題を的確に捉え、未来を見据えて、現実社会を前向きに変化させ、より良い横浜を創造しなければなりません。
それぞれの人生が異なるように、それぞれの価値観の中で大切なものを決めて積み重ね、一人ひとりがこの組織との関わりの中で、自らの志を見出し、積み重ねる事で創り上げられる「彩り」が幾重にも交差する姿こそが、この組織の最大の価値となるのです。

結びに

横浜青年会議所が産声を上げて、61年目を迎えます。この組織が世代を超えて築いてきたものは、志の連鎖であり、それは燦々と燃え続ける横浜に対する愛情なのです。私たちは、時代が変遷しても、決してこの横浜への愛情を忘れてはならず、次世代へと引き継がなければなりません。私は、この世に生まれ、世界との繋がりと横浜という街の歴史を知り、青年会議所活動を始めた責任として、横浜へ愛情を注ぎ続け、一人称で語り続ける覚悟を持って歩むことこそが使命であると信じています。人類が営々と歩んできたように、私たちの世代でしか果たせない大切な使命がそれぞれにあります。次の世代に恥じる事のない今を精一杯生き、私たちの「彩り」をこの横浜に刻んで行こうではありませんか。
必ず同志があらわれ、必ず協力者があらわれます。
今と向き合うことで、私たちの道は必ず実現の道へと続くのです。

社団法人 横浜青年会議所
第61代理事長
岡部祥司

ページの上部へ

入会のご案内