理事長所信

所信 

はじめに  

横浜青年会議所の設立趣意書には「祖国日本の再建は、我々青年の燃ゆるが如き情熱と撓まざる実行力に依ってのみ達成せられる。新しき社会を双肩に担う青年が同志相寄り相互の啓発と親睦を図り社会への奉仕を通じ広く全世界の青年と提携し将来における指導力の涵養に努めんとしここに横浜青年会議所設立せんとする。」とあります。 

 設立趣意書内に使われる涵養とは、地表の水が地下に浸透し地下水となることを指し、水が自然に土に浸透するようにゆっくりと養い育てることの意味であります。 

1951年「創生」に端を発した横浜における青年会議所運動は、2010年代のビジョンを「共感」とし、「想いをつなげるまち」横浜を目指し今日も運動を展開しています。 

「想いをつなげるまち横浜」の実現には、先人達が営々と築き上げ、連綿と流れ続いた清冽な地下水の涵養の下に、今日の組織があり、青年会議所運動があることを理解し、その清い水の流れを絶やすことなく、自らが価値の根源として、その潮流を更に研ぎ澄ませていくために、一人ひとりが積極的な行動を起こす必要があると考えます。個々の積極的な行動が同期することで共鳴し合い、相乗的なインパクトを引き出すことを「共振」と定義付け、いまを生きる我々の行動が、明日の清冽な地下水を創る源泉となり土壌となり得るために、「共振」を通して「想いをつなげるまち横浜」の実現に向けて行動することが我々の使命なのです。 

引継ぐべきは「志」であり「事業」そのものではない 

「志」を引き継ぎ、核心的な価値を継承していくことが「共振」そのものである 

 横浜青年会議所はこれまでの歴史の中で、まちづくりの中心的な役割を担ってきました。常に民間主導で規制緩和を試み、多くの成果と影響を残した多くの事業があります。これら一つひとつの事業において、先人達が各々の局面で費やしたと察する、途方もない苦労と努力、膨大な議論と判断があったことは間違いがなく、畏敬の念と心からの感謝を抱きます。 

解決すべき社会的な課題が目まぐるしく変化をする今日において、常に積極的な変化を志し、新たな価値を創造する不断の挑戦が、我々に求められています。変化は常態であり、変化を先導することこそが自身の役割なのだという圧倒的な当事者意識が、我々の存在意義の源泉であります。我々が先人達から引継ぐべきは、事業そのものではなく、一つひとつの事業に宿る志であります。急激な環境変化の中で組織が生き残り、持続的に発展していこうと決意するとき、組織は単に時代の変化に適応するだけでなく、その組織にしか創れない未来を自ら創り出していく必要があります。それができなければ、組織は存在意義を失い、よりよい未来を創り出せる他の組織に取って代わられてしまいます。時代に即した形で変わり続けるために、行政との緊密な関係性の中で、一定の発言力と影響力を保持し、常に民間主導でまちづくりに参画をしてきた先人達の志を引き継ぎ、核心的な価値を継承していくこと、引き継ぐべき志と我々の志を「共振」させることが求められているのです。 

オープンイノベーションとは内外のアイデアの有機的な結合による価値の創造であり
「共振」という行動様式をドライブさせ、新しい公の担い手となる 

イノベーションとは新たな組合せであり、創造性とは物事をつなぐことに他なりません。オープンイノベーションとは、内部と外部のアイデアを有機的に結合させ価値を創造することであり、外部のアイデアを今まで以上に活用し、未活用の内部のアイデアを今まで以上に活用してもらうことと定義をします。 

横浜青年会議所が起点となって地域にイノベーティブな変化をもたらすために、様々なカウンターパートと共振的な企てを試みたいと考えます。つまり、広義のオープンイノベーションを様々な局面において指向をするということであります。 

個々の企業が利潤最大化を通じて株主利益を追求することにより、結果として社会全体の善や幸福が達成されるという功利主義的仮定は、現在修正を迫られていることに議論の余地はありません。ビジネスの本質とは利益の最大化のために競合他社をしのぐことではなく、その企業に特有の価値観やビジョンに基づいた卓越性を求め続けることです。卓越性を追求していくことは、携わるステークホルダーのみならず、社会的な共通善に貢献しようとする姿勢を形成します。つまり、利益は価値の創造の結果であり、それ自体が第一義的な目的ではないのだといった価値観への共感の連鎖を紡いでいくことによって、横浜という街が本来的に持つイノベーティブな響きをより強め、新たなブランディングを構築することに繋がるのです。 

373万人の人口を抱える横浜市の税収構成を考察すると、法人市民税の割合が低く、市税合計の大半を個人市民税が担っていることが分かります。これからの人口減少トレンドを勘案すると、街の衰退に直結することが読み取れます。現在、計画が進められている観光・MICE、IR構想を強く打ち出し、短期移住であるインバウンドをよりドライブさせる取り組みが求められます。国際・海外からの来訪者や旅行者を増やすための具体的な施策が必要となり、その為には、心地よく滞在できる環境の整備、特色や文化等を効果的に発信する必要があります。これからの人口減少トレンドによる横浜という街の衰退への問題意識を起点に、横浜という中核都市をハブとして市内間や県内の観光地域づくりについて、官民の連携を図り、観光地経営の視点に立ったまちづくりが求められます。つまり、解決策への着手とは、交流人口の拡大のための施策を企図することであります。歴史的建造物、文化施設や公的空間等で、会議・レセプションを開催することで特別感や地域特性を演出できる、横浜らしい情緒を体感できるユニークベニューを積極的に展開致します。この街に生きる青年経済人の責任として、まちづくりに向き合い、横浜という街に根差し、そして向き合い続けてきた我々だからこそ、能動的な当事者として、官民の連携を主導し、横浜において目指すべき成長戦略を可視化できるような、未来の横浜の補助線を描く責任があるのです。なぜ我々は存在し、どのような存在であるべきなのかという、組織の生き方への本質的な自問自答から想起された、2020年JCI世界会議の誘致へ向けての具体的な行動を起こすと共に、現在の姿の延長としての未来ではなく、具体目標として描いた未来の姿から、現在の自己の姿を顕在化させ、為すべきことを規定することに資する積極的な機会と位置付けます。開港以来、「ひと」と「もの」の交流拠点として成長を遂げた街であるという原点を改めて認識し、街としてどうありたいのかという問いに向き合い、横浜だからこそ提供できるMICEプロダクトを明確にする必要があると考えます。フェイス・トゥ・フェイスの交流の場を創り、様々な人々やアイデアが集積され、最先端の情報やナレッジへの接触の機会を提供することによって、他の地域では生まれることのない新たな価値を創出し、グローバルな競争力を押し上げる契機として本世界会議を位置付けたいと考えます。 

歴史の浅い横浜において地域に根差した賑わいを創出するために、先人たちが膨大な努力を積み上げられた横浜開港祭は、本年で36回目の開催を迎えます。昨年は70万人が来場された横浜青年会議所最大の事業であり、横浜市民にとって夏の風物詩と言われるまでになった、多くの方々が集まる機会であるからこそ、ご協賛頂く企業等の方々に対して訴求すべき価値をより見出せるはずであり、横浜青年会議所としても、横浜開港祭を効果的な運動発信の場として位置付け、様々な事業を構築してまいります。横浜開港祭を単なるイベントに終始させることなく、共催である行政との関係性を活かし、横浜青年会議所だからこそ行うことのできる市民祭へとより深化させる必要があるのです。一人でも多くの市民が協賛頂くことのできる仕組みを構築することによって、まさに市民が当事者として参画し、市民が当事者として創るお祭りとしての観点において他のイベントとの一線を画し、多くの市民と手を携えて、多くの市民の笑顔のために、本年も営々と引き継いできた志を胸に、本来の目的を見失うことなく横浜開港祭を開催させて頂きます。 

昨年まで21回の開催を頂いた日本青年会議所主催のサマーコンファレンスでは、日本青年会議所の最大の運動発信に、当事者として携わることのできる貴重な機会を頂いています。サマーコンファレンスを開催させて頂くからこそ、開催地LOMとして培うことのできた、行政や他団体とのリレーションは、横浜青年会議所にとって目に見えない大きな資産となっています。開港当時、全国各地からこの国を変えたいという思いをもった若者が集い、開港という名の変化を積極的に受け入れ、既存の価値と新たな価値との「共振」が生み出された近代日本発祥の地であるからこそ、サマーコンファレンスの開催地として選択を頂けているのだと解釈をしています。21回の開催を頂いた青年会議所として、日本の青年の運動を力強く発信頂くための、最良の伴走者でありたいという考えは不変であります。様々なカウンターパートとの協働を推進するには、横浜青年会議所と繋がったら楽しそうだ、何か良いことがありそうだといった期待感が求められます。そういった期待感を戦略的に発信していく仕掛けは不可欠であり、その前提として、漠然とした期待を具体的な成果へと実現することのできるコアスキルが求められます。「共振」を創出するためには、他者とオープンに繋がることが重要な要素となるのです。 

青年会議所という人生の道場は多様性に満ちている 

「共振」を駆動させて変化の主体となる 

青年会議所における多様性とは、国籍、ジェンダー、年齢といった目に見える次元だけではなく、思想、信条、習慣といった目に見えない次元における多様性であり、その様々な違いを、尊敬を持って認め合う寛容性であります。青年会議所運動の行動綱領である三信条の一つである友情とは、世界との友情であり、一歩足を踏み出せば、世界は広く、多くの機会に溢れていることを体感できることが青年会議所の大きな特色の一つであります。 

広島平和記念公園を訪問したオバマ米大統領は、その演説で「国と国が関係を育むのは、暴力的な競争のためではなく平和的協力のためだ。同じ人類として互いの繋がりを再び考えるべきだ。それが、人間の人間たる所以だ。」と述べました。世界からテロの脅威がなくなり、すべての人々に不当な境遇に左右されず機会の平等がもたらされるような世界が理想的であることには議論の余地はないはずです。世界が自国の利益を最優先し、内向きな志向を強める傾向の中で、国家間の利害を乗り越え、多様性の寛容を実現できるのは民間の役割であることを改めて認識する必要があります。世界を変えるための具体的な行動とは、自分を変えることであり、青年会議所活動には自身を積極的に変えることのできる多くの機会が開かれています。 

横浜青年会議所自体も、多様な背景を持った様々なメンバーが在籍をします。日本全国には697の青年会議所が存在し、130の国と地域で志を同じくする同志が青年会議所運動を繰り広げています。他者は自身を映し出す鏡に他ならず、社会との接続である他者との関わりの断面が大きいほど、自身の成長をエンパワーする素養を育むことができるのです。人は自分一人で成長できるものではなく、他者との関わり合いを通じて磨かれていきます。自らが変化とならなければ、自身が望むべき世界の変化はあり得ません。自らが変化の主体となるために、あらゆる局面で絶えず他者と自身の「共振」を駆動させることのできる仕組みが、青年会議所には内在しているのです。 

 むすびに 

青年会議所運動は慈善活動ではありません。自己犠牲ではなく自己実現に他ならないのです。各地で頻発する災害や、絶え間なく繰り返される世界でのテロに直面して、自分にできることがあるなら少しのことでも何か役に立ちたいと考えるのは人間として当たり前の意志です。人生には限りがあります。いまを生きる者として、我々の世代が果たすべき責任として、青年会議所という仕組みを利用して、あらゆる社会的な課題に対して、具体的で根本的な解決を企図すべきであります。未来に覚悟を定め、過去から引き継ぐべき志との「共振」を通して未来を捉え直し、その実現に向かって現在を直視するべきだと考えます。正解のない時代だからこそ、ありたい未来である北極星を明確に設定する必要があります。つまり、過去が未来を決定するのではなく、どのような未来を描くかによって過去と現在が、どのような意味を持つのかが決定されるという文脈において、我々は北極星を目指し根源的な時間を生きるのです。机上では付加価値は生み出せません。常に民間主導で社会的な課題を解決していくということは、困難な挑戦かもしれません。最後まで諦めずにやり続けるからこそ、困難や矛盾のあるところに新たな発想の機会があり、それを克服しようと向き合うところにイノベーションが生み出されるのです。多彩なキャリアを持つ青年経済人の集団だからこそ、「共振」を通じて着実な成果を出せるはずだと私は信じています。 

一般社団法人横浜青年会議所
第66代理事長
森 大樹

当サイトへ掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。 Copyright (C) (一社)横浜青年会議所 All Rights Reserved.